「あふ」
細身の割に、彼の胸板は硬い。
すっぽりと酒童の胸に顔が埋まってしまったので、陽頼は恥ずかしくなり、赤い耳を出したまま動かなくなった。
「ど……どうしたの?急に」
「ここ3日ろくに、お前に触れてなかったからさ」
陽頼を抱きしめたまま、酒童はそう答えた。
見た目に相反して、恋愛経験が少ない人のはずだが、時たま、ふっと糸が切れたように、驚きの行動を取る。
これがその「驚きの行動」のひとつである。
しかし陽頼は、そんな酒童も嫌ではなかった。
「……いま何時?」
「5時30分」
「じゃあ、まだ大丈夫かな」
陽頼は柔らかく笑んだ。
早起きは三文の得とはよく言ったもので、いつもより早く起床したおかげで、三文以上の得をした気がする。
酒童に身を委ねるように、陽頼は自ら、彼の肩口に額を当てた。
「もうしばらく、このままでいいや」
呑気にそう口にした陽頼を、暫時は黙って見つめていた酒童だったが、
「ごめんな、わがまま言って」
と、仄かな柔らかい口調になった。
まだ朝日の差さない微妙な明るさの部屋の中で、そうっと唇に触れた。
「ん」
口と口の間を薄いものが通ると、思わず、塞がれた唇の間から漏れる。
酒童にしては珍しいキスだった。


