化け物の胴体と下半身を断ち切った隊員は、母親を背に庇い、群がってくる数体の化け物どもを迎え撃とうと、刀を正眼に構える。

 そんな隊員の装束を、母親は死に物狂いの形相で掴み、懇願した。


「お願い、助けて」


 母親は、絶え間無く血が流れる腕を垂らし、もう一度、強く頼んだ。


「この子だけでいい、私は置いて行って…この子だけは助けてっ……!」


 この子、だけは……。

 ……じ、だけでも、いいから……。



 次第にぼやけていく視界。

 彼らの言葉を聞き取れなくなっていく耳。

 酒童は必死に体を起こすことに専念していたが、こんな時に、意識が遠のいた。

 ぼんやりとした視界に、血のような紅の水たまりが広がって行く。




 そういえばあの男隊員は、誰かに、似ていた気がする。