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 陽頼が身体を起こすと、朧げな視界に長い茶髪が映った。


「嶺子(れいじ)くん……」


 ぼんやりとして、横で眠る彼の名を口にした。

声に出してみて、実際に指でつついてみて、陽頼は実感した。


『今日も無事で、帰ってきてくれた』


 一般家庭では、いちいちそんな心配などしないだろうが、仕事が仕事なので、懸念せずにはいられない。


 陽頼は、嶺子……酒童嶺子の、細くもたくましい腕を触ってみる。

左腕には、昨日にはなかったはずの、浅い切り傷がついていた。


 以前、酒童が着替えているのを、偶然にも目撃した時があったが、その時の彼れに刻まれた傷の多さが、まだ鮮明に記憶に焼き付いている。


 羅刹は、子供たちからすれば悪と戦うヒーローであり、世間的にも名誉の職と称される。

それでも、この痛々しい傷を毎日のように負うのだと考えると、どれだけきつい仕事であるかが想像できた。


「また、怪我ほったらかしてる……」


 陽頼は急いで台所の棚から四角形の絆創膏を持ってきて、それを酒童の腕に刻まれた切り傷に被せる。


絆創膏に覆われた傷は、明日には治ってしまうのだろう。

 しかしそれでも、陽頼にとってあの傷は邪魔に見えた。