羅刹の刃《Laminas Daemoniorum》







 今日はいつもより、日が沈むのが早かった。

もう1週間前までは7時くらいに日没が完了していたのだが、今日は例日よりも半時間ほど早く日が沈んだ。

まだ槿花山は紅葉に彩られていないが、やはり気温が下がって日没が早まると、秋の訪れを如実に感じる。

 空を仰げば、ほぼ形の整った月が煌々と浮かんでいる。

明日、明後日くらいには、満月になるだろう。

 酒童は月からコンクリートに視線を移し、無人の道路を眺めた。


「―――」


 このビルのような、中小企業が営む建物を見ると、真っ先に陽頼が脳裏をよぎる。

 陽頼は、こことは別の中小企業にOLとして務めている。

しかも今日は当直で、夜も会社に残らなくてはならない。

 酒童はビルの角を一点に見つめた。

特にこれと言って妙なものはないが、酒童の目には、それがうっすらと映っていた。

ビルの角すべての地面に、太く頑丈なボルトが埋め込まれている。

それがぼんやりとした淡い紫根の糸を出し、繋がり、ビルを守るように囲んでいる。

ここだけではない。

他のビルも、民家やその敷地も、建物と言う建物もすべて、このボルトが繋ぐ糸に囲われている。


 これが、以前に記した“結界”である。


 いわば、呪法班による特殊技術を用いた、西洋妖怪を退けるための視えぬ防護壁だ。

これがあるから、西洋妖怪が民家を突き抜けても、西洋妖怪の身体が家をすり抜けて行くため、家は壊れない。

 だから結界の中にいる限り、人間も襲われることはないのだ。

今や結界は工業においても必須用語となるほどの重要な役割を果たしているが、その結界の作成について熟知しているのは、呪法班もしくは呪法の技術を修めた者しかいないという。