「そうだなあ。
うちの学校はバカ高校だけど、テストもあるしな」

「なかなか勉強なんてしてられない、だね。私も同じだったよ」

「そうそう。頑張っても、成績は半分くらいの順位ってとこ」


 天野田は茨の話を聞きながら、うんうん、と何度も顎をしゃくる。

 そして、


「まあ、あれだ。
もし成績不順で困っていたら、かつて学年1位をキープし続けてきた私が、勉強を教えてあげ……」

「茨」


 先ほどまで目を煌めかせて喋っていた天野田だったが、急に言葉を遮られて、不満げに声の主を睨んだ。


「酒童くん、いつも言ってるじゃないか。
人が話してる時は、最後まで話を聞いてから……」

「どうでもいいが、茨よ。
俺は先に帰るから、俺の分の配給は貰ってっていいぞ」


 酒童は、天野田など完全に無視である。

茨に自分の分の軽食を渡すと、酒童はさっさと部下に背を向けた。


「酒童さん、食べないんですか?」

「俺はいらねえ」


 それだけ言って帰ろうとする酒童の背中に向けて、嫌がらせのつもりか、天野田がこんな言葉を投げかけた。


「そりゃそうだね。
なんたって、お嫁さんが……」


 そこで、


 カコン。


 と、天野田の額にペットボトルが直撃した。


「ぐえっ」


 思わず色気のない声を出す天野田に、羅刹の隊員たちからは、堪えきれずに笑声が零れる。

そんな注目の的になった天野田に対し、

酒童はほんのりと火照った顔で、眉をしかめていた。


「まだ結婚してねえし」


 ふん。

 恋愛に疎いのを隠すように、酒童は平然を装ったまま、そっぽを向いた。


「はやく嫁にもらっちゃえばいいのにー」


 そんな言葉と共に、同感と唱える温かい談話が始まった。


無論、彼が拠点を後にして、少したった時である。