羅刹の刃《Laminas Daemoniorum》




 その判断をしたのは、酒童だった。

 天野田は前から茨を仲間に欲しがっていたし、彼女には悪いが、朱尾と入れ替わってもらうことにしたのだ。


「……酒童さん」


 桃山が、怪訝そうな面差しで視線を落とした。


「どうした」

「なんで、茨を切り離しちゃったんですか?
新人なら、鬼門班長に任せればいいじゃないですか。
しかも、その新人って……」


 桃山が言いたいことは、だいたい酒童も予測ができた。

しかし彼の言葉は続かなかった。

 かしゃり、という、金具のずれる音が遮ったからである。

 きぐりとして桃山が振り返る。

 そこには、何食わぬ顔でやってきた朱尾がいた。


「先輩、獲物はどこいにいるんすか?」


 幸いにも、桃山の話が聞こえていなかったようである。

 朱尾は恬として、猟銃を背負っていた。


「市街地の、表にある大通りだ」


 酒童がそう返すと、「はあー」と、朱尾がなにやら驚いたように目を見開いた。


「そいつぁ、昨日、俺が大蛇をぶち抜いたとこの近くですかね?」


 大蛇。

 どうやら、昨日の不可解な死を遂げた、あの鳥頭の怪物を指しているとおぼしい。


「ぶち抜いただと?」


 そこで榊が、朱尾の前に歩み出た。

 180センチもある巨漢の榊と、170センチという日本人の平均身長にも満たない朱尾が並ぶと、明らかに目線が違う。

 どう考えたって、朱尾の方が小さい。

 それなのに、この狩人が放つ緊迫の空気は、その低身長という彼のコンプレックスを覆い隠した。


「おい、それは昨日の、鳥頭のバケモンのことか?」


 榊が声を太くした。


「そうだが」

「西洋妖怪を仕留めんのは、羅刹の仕事だ。
今は羅刹かもしれねぇけどよ、あの時点で部外者だろ。
勝手な行動は慎めよ。
もしものことがあったら、大変だろ」


 榊は朱尾よりもひとつ下の21歳である。

しかし、自分より身長が低いのと、彼の態度が気に食わないのもあって、榊は強い姿勢で朱尾に言った。

 だが朱尾も負けてはいなかった。


「悪いが、俺の中じゃあ、西洋妖怪も獣と同んなじだ。
狩の対象なんだよ」