羅刹の刃《Laminas Daemoniorum》




「あらら」


 天野田は呆気にとられたようだ。

 酒童も呆然としていた。


(嘘だろ)


 朱尾は、あんなにも冷たい男だったろうか。

 酒童に見せている顔とは、月とすっぽん以上の差がある。

朱尾のようなさっぱりとした人物にも、裏の顔があったのだろうか。


「まったく噂をすれば……。
ほら酒童くん、見てみなよ」


 天野田に促され、酒童は廊下の奥にいる女班員を見つめた。

化粧っ気がなく、悪くいえば作りの薄い顔が、悲哀かなにかで、軽く歪んでいる。


「あんなに泣きそうな顔にさせて。
あの野生児は何を言ったんだろうねえ」


 まったく。

 天野田は、つくづく愛想が尽きたかのような口ぶりであったが、それほど気に留めてはいないらしく、呑気にあくびをかいたのだった。