私の中のもう一人の“わたし” ~多重人格者の恋~

「あら、まあ……」


お母様の目が細くなり、鋭く光ったように見えたのはたぶん気のせいじゃないと思う。もう、剛史さんのバカー!


「は、はじめまして。小早川裕美と申します。今日は突然お邪魔してすみません」


私は頑張ってご挨拶をしたのだけど、お母様の反応が怖くて下げた頭を上げられなかった。ところが……


「裕美さん? 可愛らしいお名前ね。私は剛史の母です。こんなドラ息子とお付き合いしてくれて、嬉しいわ」


優しい声でそう言ってもらえ、しかも言い方が可笑しくて、思わず私は顔を上げた。


「“ドラ息子”って、そんな言い方ないだろ?」

「あら。あなたにピッタリだと思うけど?」

「ちぇっ。裕美、二階に行こうか?」

「は、はい」


たぶん剛史さんの部屋は二階にあるのだろう。私はお母様に会釈をし、剛史さんに続いて階段を上がろうとしたのだけど……


「あ、やっぱりおまえは下で待っててくれ」


と剛史さんに言われてしまった。剛史さんと離れるのは心細くてイヤだなと思ったのだけど、


「ささ、こちらへどうぞ。お疲れでしょ? 今、お茶を淹れるわね?」


と、お母様から言われては抵抗も出来ず、私は、さっさと私を置いて階段を上がっていく剛史さんを、恨めしく見つめるほかなかった。