私の中のもう一人の“わたし” ~多重人格者の恋~

その後は特に何事もなく終業の時刻を迎えた。

剛史さんは私の職場まで迎えに来てくれる事になっているので、彼が来たらすぐ帰れるように、私はパソコンの電源を落として席でおとなしく待っていた。


「裕美、もう帰るんだよね?」


真由美が私に声を掛けて来た。


「うん、そうなんだけど……」

「久しぶりに一緒に帰らない? 聞いてほしい話もあるしさ」

「そうしたいのは山々なんだけどね……」

「もしかして、今日も彼氏と帰るわけ?」

「実はそうなの」

「あなた達って、すっごいラブラブなのね?」

「そうじゃないの。これには色々と事情があるのよ……」

「前もそう言ってたよね? どんな事情なのさ?」

「ちょっと込み入ってるから、一言じゃ説明できないわ」

「そっかあ。じゃあ、今度ね?」

「うん、ごめん」

「あ、来たわよ?」


真由美に言われて通路に目を向けたら、鞄を手にぶら提げた剛史さんが、颯爽とこっちに向かって歩いて来ていた。


「彼ってほんと、いい男よね……」


真由美が剛史さんを見ながら、ため息をつくようにそう言った。


「そ、そうかなあ」

「SEってイケメンが多いのかもね?」

「えっ?」


その時は、真由美が放った言葉が気になる私だったのだけど……


「はい、行った行った。この幸せ者!」

「ちょっと……。じゃあ、悪いけどお先にね?」


真由美に背中を押されて職場を後にした時には、既にその事は私の頭から消えてしまっていた。