「さてと、帰るかな」


ほら、挨拶すれば? “裕美ちゃん”。

『いいの?』

どうぞ、どうぞ。私、挨拶って苦手だし。

『うん』


「今日はたくさんご馳走になっちゃって、ありがとうございました」

「どういたしまして、裕美ちゃん」

「気を付けてくださいね?」

「うん。裕美ちゃんもね?」

「はい」

「じゃ、おやすみ」

「おやすみなさい」


挨拶は終わったはずのに、なぜか“私達”をジッと見つめる岩崎さん。そんな彼を、少し顔を上げて見返す“私達”は、岩崎さんの顔がスーッと近付いて来ても、まるで金縛りになったように動けない。


「んっ……」


岩崎さんの顔がどアップになった途端、“私達”の唇に何かが触れた。それはとても軟らかで、ちょっと冷んやりした……岩崎さんの唇。つまり、キス。

ああ、キスって久しぶりだわ……じゃなくて、


「ちょっと、やめてよ!」


私は岩崎さんの頑丈な胸に手を当て、それを力一杯押し返した。


「不意打ちなんて卑怯じゃないの!?」