男のIDカードを私のパソコンで読み込み、カード情報を管理するサーバーにアクセスした。するとすぐに男の情報が画面に表示された。


名前は岩崎剛史。剛史ねえ……。正に“名は体を表す”って感じだわね。歳は……30歳? もう少し若いのかと思ったわ。で、肝心の権限は……

えっ? 何もない。すっかり消えてるわ。


これでは個人認証は出来ないし、例えそれが出来ても何の役にも立たない。言ってみれば男のIDカードは、ただの入館証と化していた。


「主任、ちょっといいですか?」


私は隣に座る上司に相談する事にした。だって、今までこんなのは見た事がなかったから。


「どうしたの?」

「えっと……この岩崎剛史さんって人のIDカードなんですが、権限がすっかり消えてるんです」

「本人は在職しているの?」

「はい。たぶん開発部の人で、今カウンターの所にいてカンカンに怒ってます」


主任はチラッとその男、名前は岩崎剛史というらしい彼に目をやった。


「そのようね」

「どうしてこんな事になっちゃったんでしょう?」

「たぶんITセクションのミスね」


ITセクションは、社内のネットワークから社員への貸与パソコンまで、社内システム全般を扱う部門で、IDカードのデータ管理もそこで行っている。私が所属する総務は、IDカードに関しては社員とITセクションの橋渡しみたいな位置付けだ。


「たぶん辞めた人と間違えられたのよ。気の毒だけど」