お寿司屋さんを出て、“私達”は岩崎さんと並んで通りを歩いている。


「本当にご馳走になっちゃっていいんですか?」

「もちろん。どうして?」

「だって、すごくお金が……」

「ああ。そんなの気にしなくていいよ。今日は特別だからね、覚悟の上さ」


特別? 覚悟?


「え? それって……」

「俺がいつも寿司食ってると思った?」

「そういうわけじゃ……」

「正直、ちょっと奮発したんだよ。君にいい格好したくてさ。ちなみに玉はランチでごまかした。ははは」

「そ、そうなんですか?」

『嬉しい……』


自分で種明かししちゃうのもどうかと思うけどね、嬉しいのは確かかも。



「ところでさ、ずいぶん涼しくなったな?」

「はい、本当に……」


ついこの間まで残暑が厳しかったけど、ここ最近は昼間はまだ暑いものの、朝晩は涼しく感じるようになった。夏の終わりなわけで、ホッとする反面、ちょっと寂しさを感じてしまう今日この頃だ。


「裕美ってさ、酒は飲める?」

「あ、はい」

「そっか。じゃあ飲みに行こうか?」


私は咄嗟に帰りたいと思ったけども……

“わたし”は迷わず「はい」とか言い、嬉しそうに微笑んだ。

やっぱりか。ああ、長い夜になりそうだなあ。