「大きな声を出されては困ります。少しお待ちいただけたら私がお調べしますから……」


その無礼な男にそう説明しているのは、私と同期で仲がいい高橋真由美ちゃんだ。今日は彼女がカウンターの当番だ。


「こっちは急いでんだよ。暇そうな人がいたからさ……」


それって私の事!?

何言ってんのよ。“わたし”は真面目に仕事してたでしょ?

超ムカつく、この男……。


と内心では毒づきながらも、

「どちらのカードですか?」

と澄まし顔で言う私。偉いでしょ?
だって、一応プロだからね。


「裕美……?」


心配そうに私を見上げる真由美に、私は“大丈夫だから”という念を込めて小さく頷き、カウンターの前に立った。


「コレなんだよね」


男が私に見せたIDカードは、一目でその男自身のものだと判った。なぜなら、そのIDカードはマシンルームの高セキュリティエリアに入室が可能な特殊なカードで、男の顔写真がプリントされていたから。

という事は、その無礼な男は開発部の人間、という事になる。