「裕美を怯えさせたり、極端に怒らせたり、激しく興奮させない事を、誓います」


剛史さんったら、アドリブを加えたみたい。何を言ってるのかはよく解らなかったけど。

じゃあ、私も……


「剛史さんに、あまりヤキモチを妬かせない事を、誓います」


剛史さんが、また“ヨシミ”ちゃんになっちゃったら困るからね。本当に、それを肝に銘じなくっちゃ……


そんな私達に、神父さんは苦笑いを浮かべていた。



「それでは、誓いのキッスを、してください」


神父さんは気を取り直して(かどうかは知らないけど)そう言った。やはり片言の日本語で、キスではなく“キッス”と。


実はこの瞬間が私は一番気になっていた。もちろん剛史さんとは数え切れないほど“キッス”をして来たけど、人前でした事はない。まして、田舎から出て来てくれた私の両親や、剛史さんのご両親の前でするなんて、恥ずかし過ぎる……


剛史さんはその辺りを汲んでくれて、おでこにチュッで済ましてくれないかしら……


私達は向かい合い、剛史さんは薄っすら微笑みながら私を見、そんな彼を私も見つめた。そしていよいよという時に、彼は口角を少し上げ、悪戯っ子のような顔をした。そしてその目は、確かにこう言った。


「濃厚なヤツ、行くぜ」と。


「ちょっ、それはダメ!」


と目で訴えるも、すぐに私の口は剛史さんのそれで塞がり、あろう事か舌が入って来た。

この男は、いったい何を考えているのやら……


私から離れるのは、たぶん儀式的にNGだと思うから、恥ずかしさで顔が熱くなりながらも、私は耐えに耐え、でも次第に没頭してしまった。神父さんは咳払いをしていたけども。きっと心の中で、“oh my God !”もしくは“Shit !”とか呟いていたと思うけども。



おしまい。


※最後までお付き合いくださり、誠にありがとうございました。


2013.9.23 秋風月