真由美ちゃんは目を丸くして妙な事を言った。俺が腹を刺された?


「何を言ってるのかわからないけど、それはともかく裕美はどこにいるのかな?」

「だから、裕美はそれを聞いて慌てて病院へ……」

「何だと!? それはどういう事だ? 説明してくれ」

「イサムさんから私に電話が来て、岩崎さんが見知らぬ男にナイフでお腹を刺されたって聞いたんです。それをすぐに裕美に伝えて……」

「ちょっと待て。“イサム”って誰?」

「開発部とフリー契約しているSEさんです。岩崎さんも知っているでしょ? 彼は岩崎さんの事を良く知ってましたよ?」

「そんな奴はいない!」


開発部(うち)では確かに時々フリーのSEに仕事を委託する事はあるが、“イサム”という名のSEを俺は知らないし、そもそも今はフリーのSEは一人もいない。


「そ、そんな……」

「そいつはどんな奴だ?」


俺はある推定の元、真由美ちゃんにそう聞いてみた。


「どんなって、超素敵な人で……」


真由美ちゃんは恥ずかしそうに目を泳がせた。彼女の主観を言われても困るし、どうやら真由美ちゃんはそいつに惚れてるらしい。


「もしかしてそいつは、色白で女みたいになよっとして、歌舞伎の女役がぴったりみたいな男じゃないか?」

「は、はい。正しくその通りです」


やっぱりか。そいつは玉田の別人格で間違いないだろう。あの野郎、姿を見せないと思ったら、密かに真由美ちゃんに接近していたのか……