「痛い!」


私は手にズキンという痛みを感じた。


「どうした? どこか怪我したのかい?」

「手が痛いの」

「どれ、見せてごらん?」


私が剛史さんに両手を差し出すと、彼はそれをそっと包み込むように持ってくれた。


「結構ひどいな。病院で診てもらおう?」

「うん。憶えてないけど、どこかにぶつけたのかしら……」

「だろうね」

「うふ。でもよかった……」

「ん?」

「今度はちゃんと“ありがとう”って言えて……」

「今度って?」

「前に少しだけ剛史さんに話したと思うけど、私は中3の時……」


私は中3の時に、危うく同級生の男子から乱暴されそうになった事を剛史さんに話した。


「結局、誰が私を助けてくれたのか分からなくて、その人にお礼が言えなかったの。それが今でも心残りなんだけど、今度はちゃんと言えたから良かったわ」

「…………」


なぜか剛史さんは無言で、何かを考えているような……


「剛史さん?」

「あ、ああ。よかったな? お、救急車が来たらしい。パトカーも来たかな」


確かに救急車のサイレンが聞こえて来た。


「警察も呼んだの?」

「もちろん」

「大丈夫かしら……」


私はそう言って、横たわる玉田さんを見た。


「ああ、過剰防衛ってやつか……」

「うん……」

「ま、その時はその時さ」

「もし剛史さんが牢屋に入れられたら、私毎日面会に行くね?」

「おお、頼むよ」


私が苦笑いを浮かべた剛史さんを見上げていると、剛史さんはゆっくりと顔を近づけ、優しくて甘いキッスを私にくれた。

剛史さん……大好き。