「剛史さん、ありがとう」

「ん?」


なぜか彼はまた疑問形。


「私を助けてくれて……」

「あ、ああ。無事で良かった」


何か他人事のように聞こえるのは、たぶん私の気のせいだろう。


「あの男は?」

「玉田か? あいつならそこに横たわってるよ」


そう言われて辺りを見ると、コウジと名乗る男、というか玉田さんが、コンクリートの床に仰向けで横たわっていた。目を閉じ、ピクリとも動かないのは、たぶん気絶しているからだと思うけど、まさか……


「い、生きてるよね?」

「それは大丈夫。ちゃんと息をしてるよ。そろそろ救急車が来る頃だ」

「そう? よかった。でも剛史さん、ちょっとやり過ぎじゃない?」


玉田さんの顔は腫れ上がり、口の脇からは血が流れていた。綺麗だった顔が、今は見る影もない。


「そうだな。よっぽど憎かったというか、怖かったんだろうな」


また剛史さんの言い方が他人事のように聞こえる……