私の中のもう一人の“わたし” ~多重人格者の恋~

何が起きているのかさっぱり解らないけど、私は身の危険を感じてとにかくタクシーから出ようと思った。そしてドアを開けようとあちこち触っていたら、ドアが大きく開き、運転手さんに逆に奥へ押し込まれてしまった。


「な、何をするんですか!? 放してください」

「黙れ、このクソアマ!」

「ひぇっ」


この人、すごい怒ってる。何とかなだめないと……


「失礼があったなら謝ります。ごめんなさい。とにかく私は急いでるんです。早く病院へ行かないと、彼が……」

「あんた、まだ気付かないのかい?」

「へ?」

「剛史さんは無事だよ。会社でピンピンしてるぜ」

「えっ? ナイフでお腹を刺されたんじゃ……」

「そんなの嘘に決まってんだろ?」

「嘘? ………あ、あなたはイサムって人なのね?」

「俺はイサムじゃねえよ。コウジっていうんだ」

「コウジ?」

「大人しく寝てろよ。その後いい思いさせてやっからよ」


コウジと名乗る人は、片手で私の肩を押さえながら、もう片方の手で背広の内ポケットからビニール袋みたいな物を取り出した。そしてその中から白い布を出すと、それを私の口に無理やり押し付けてきた。


「な、何を……ん……」


その布には何かの薬が沁み込んでいるらしく、消毒用のアルコールみたいな変な匂いがした。

次第に遠のく意識の中で、その男の目に見覚えがあるわけがわかった。その男の目は、ITセクションで私を睨んだ時の、玉田さんの目と同じだった。