私の中のもう一人の“わたし” ~多重人格者の恋~

その後の2日間は何事もなく平穏に過ぎた。玉田さんは依然と会社を無断欠勤したままだけど、あの人もしくはあの人の別人格は影も形もなく、私の中で危機意識はだいぶ薄れていた。

そんなある日の夕暮れ時。時計を見て、そろそろ剛史さんから連絡が来る頃だなあ、なんて思っていた時、ついに事件が起きてしまった。


「あ、イサムさん? まだ仕事中なのに……」


不意に真由美の甘えるようなヒソヒソ声が聞こえた。見ると真由美は、人目を気にして背中を丸め、誰かと携帯で話をしていた。相手は“イサム”という人らしいけど、いったい誰かしら。というか、真由美ったら、いつの間に……?


「えっ? 本当ですか?」


突然、真由美が大きな声を出した。背筋をピンと伸ばし、人目を気にするどころじゃないという感じで、顔にははっきりと緊張が走っていた。


「はい。……はい。あ、ちょっと待ってください」


そう言って真由美はペンを掴むと、


「お願いします。……本郷のT大病院ですね? ……タクシーで?」


携帯に耳を当てながらメモを取っているけど、病院?
誰かが病気あるいは怪我をしたのだろうか……


「はい、わかりました。裕美にすぐ伝えます。知らせてくれてありがとうございました」


わ、私!?

真由美は今、“裕美に伝えます”って確かに言ったと思う。いったい私に何を伝えるというの?


「裕美!」

「は、はい」

「落ち着いて聞いてよ? 岩崎さんが……」


剛史さんが!?


「ナイフでお腹を刺されたそうよ」

「…………えっ!?」