「「はっ?」」

「いや、だからね?」

「だからも何もありませんよ!それどういうことですかアルさん!きちんと説明してください!」

「いや、だからさっきも……」

「どういうことだよ?!」

「いや、だからね……」




ただいま疑問が多すぎて混乱状態のわたしとケヴィさん。

アルさんはそんなわたしたちにたじたじになっている。




────遡ること、城に行った翌日の午前、つまり今日。




わたしたちは羊の見張り番をしていた。

そして、わたしはケヴィさんからリチリアについて説明してもらっていた。



リチリアの首都はバダラと言って、そこはこのセンタルよりも気候が暖かく、生物も多く住んでいるらしい。

だから、わたしたちが地下でやっている農園などは地上で普通に行っているそうだ。

けれど、リチリアは砂漠が大半を占めていて、首都のバダラに国民のほとんどが集まっているのだそうだ。


話を聞いた限り、エジプトよりはマシみたいだから、バダラは東南アジアみたいな感じ。

でもリチリア全体で言うと、エジプトかな?よくわからないけど、バダラで人々は暮らしてるんだって。


そんなバダラに大規模な火災が発生してしまい、農園や牧場の3分の1ぐらいが無くなってしまったのだそうだ。

それは国全体の3分の1がなくなったのとほぼ同じこと。

人々は途方に暮れていたけれど、王が率先して復興に乗りだし、国をなんとか立て直そうと奮闘中。

その結果、他国の山で乱獲をしたり、他国の山で発掘をして、珍しい石を出荷したりするという行動に出た。

その他国の山というのは、わたしが発見された山。つまり、カイルさんたちが納める国、ケルビンの領土。


わたしの憶測だけど、頂上付近にいたオーロラ石発掘隊による雪崩がわたしを直撃、というなんとも迷惑なことが起こったもよう。

わたしは平気だったけど、少なからず野生動物にも被害が出たんじゃないかな、と思った。


でも、ケヴィさんには疑問がひとつあるみたい。


なんでオーロラ石がそこにあると知っていたのか。カイルさんたちも知らなかったことなのに。

自国の資源を把握できていないのは仕方ないけど、他国の資源のありかを知っていてましてや勝手に採るなんて、ありえない行為だ。


オーロラ石だけならまだ許せる。でも乱獲までするなんて酷い。

キツネさんたちは悲しんでいた。やむを得ず殺すのではなく、そのためだけに殺すのは道理に反することだ。人間としてやってはいけない。

殺さなくても済んだはずの命が人間によって途絶えてしまうのは、なんとも悔しい。


そのようなことを聞いていたとき、コナーが飛んできて、小屋の窓をつついた。




『姫!姫!開けて!』




なんだか焦っているみたい。ケヴィさんをちらっと見たら、肩をすくめられた。口を挟まない、という意味みたいだ。

わたしは窓を開けてあげた。



『姫!早く!死んじゃうよ!』

「死んじゃう?!何が?」

『いいから、早く!』



コナーがわたしの髪を引っ張るので、ちょっと出ます、とケヴィさんに断ってからわたしは小屋を飛び出した。

コナーはピゅーっとものすごい速さで飛んでいく。




「コナー!待って!早いよー!」

『ごめん、姫。でも急いで!こっち!』




走ること数分、コナーがやっと木に止まってくれたので、わたしはぜえぜえと肩を上下させながら手を膝について荒い呼吸を整えた。




『『『姫、そこ!』』』

「え?」




いつの間にか3羽に増えていたコナーたちを見上げた後、目の前に視線を戻した。




「え、どこ?」

『『『そこだよ!』』』



……どこ?わたしは辺りに視線を巡らした。すると、不自然に小さくポコッと沈んでいる雪の地面が目に入った。

わたしはそこになんとか歩いて近づき、小さな穴を覗いてみた。


これは、もしかしなくても……




「たまご?」

『『『そう!生きてる!助けて!』』』



コナーたちはパタパタとはばたいて、わたしの目の前に並んで着地した。


小さな穴の中には、鶏卵よりも少し小振りな白いたまごが埋まっていた。



……そうか、たまごって暖めるものだもんね。雪の中に放置したらいずれ死んでしまう。


わたしは穴に手を突っ込んで、たまごを手に取った。



「……なんのたまごだろ。鳥かな?でもなんだか弾力性があるような」



と、わたしは思い出した。

そういえば中学生の時に、ハチュウ類のたまごは弾力性があるって習った気がする。

じゃあ、ヘビかな?でも雪国にハチュウ類って変だよね。変温動物だから冬眠してるはず。




「ますます変だ……」

『姫!』
『早く!』
『暖めて!』




わたしがそんなことを考えていると、コナーたちに頭ごなしにそう言われた。

そうだ、暖めないと死んじゃう……



わたしは着ていたコートの胸ポケットにたまごをそっと入れた。ここならぶつける心配もないし、暖かいだろう。

着ていたコートが男物でよかった。少しぶかふがだから、少し小振りなこのたまごでもすっぽり入る。




『姫!ありがとう!』
『ありがとう!』
『また来るね!』



コナーたちはそう言うと、どこかへと飛んで行ってしまった。




「さて、どうやって戻ろうか……」




わたしは本当はコナーたちに案内してほしかったけど、仕方なく、自分自身でつけた足跡をゆっくりとたどった。



「それにしても、本当になんのたまごなんだろう。ハチュウ類じゃなかったりして……」



今までまともな動物と会ってきている。けれど、元の世界にはいない見たことのない動物がこの世界にいるかもしれない。


……狂暴なモンスターのたまごだったりして。




「いや、やめておこう。想像しちゃダメだ。もしかしたら案外かわいいのが生まれてくるかもしれないし」



わたしはどうケヴィさんに話そうか、そのことを気にしつつ、走って熱くなった身体を冷ましながら小屋へと戻った。