「抱くって……つまりは、あの……」

「さすがのおまえでもわかるか。その意味が……で、おまえはどうなんだ?」

「わたしは……わたしは……」




カイルさんは待ってくれているけれど、ここでその言葉を言えば、わたしの決断がグラグラと揺れる。

一番恐れ、一番期待していた両想い。


必ずやってくる別れ。カイルさんは忘れるけれど、わたしは覚えている。

それが、正直言って辛いのだ。


わたししか覚えていない密事。甘い時間。

それを抱え、この世界を去らなければならない。


……シンデレラよりも、圧倒的に悲惨な結末。


わたしたちに、ハッピーエンドなんてものは存在しないのだ。




「……悪い、泣かせるつもりはなかったんだ」

「ち、違っ……」

「さっきのは、忘れてくれ……」




不意に溢れた涙。でも、悲しくて泣いたのではない。怖くて泣いたのでもない。


さらに小さくなって見えるカイルさんの後ろ姿。ドアを開け部屋の明かりをつけ中に入ろうとする。



待って……行かないで……このまま別れたら、後悔するに決まってる。

なんで、あのとき抱かれなかったの?って……




わたしは衝動的に駆け出し、後ろでドアがパタンと閉まる音を聞いた。




「おまっ……」

「泣いてごめんなさい。でも……困らせるために泣いたんじゃないんです……嬉しくて泣いたんです。信じてください」

「……カノン」




頬にくっついているのはわたしのではない体温。背中。

腕を回しているのは、男性の筋肉質な体躯。




「……いいのか?」

「はい。心の準備はできています」

「初めてが、俺でいいのか……?」

「弱気にならないでください。大丈夫です。自信を持ってくださいよ。じゃないと不安になります……」

「……後悔するなよ」

「しません!絶対っ───」




くるりとカイルさんがわたしの腕の中で向きを変えたと思ったら、そのまま上から端正な顔が降りてきて口を塞がれた。



「……ふっ……」



自分の声ではない自分の声が漏れ出し恥ずかしくなる。

それにしても、お酒を飲んだ人とは思えない。

まったくアルコール臭くないのだ。




「カ……イル……さ……んっ」




しゃべろうとしたら、そのまま舌を差し込まれる。後頭部を押さえられ、頬には手を添えられた。

口の中で暴れる熱くてやわらかいもの。

そして、わたしのそれと出逢った瞬間、激しく絡まれた。そして、軽く吸われる。



こんなディープキスを体験したことのないわたしにとって、この刺激は強すぎた。

身体に電流がビビビッと流れ、膝から力が抜ける。


カイルさんは肩で息をしているわたしを上手く支え、お姫様抱っこをした。

そして、まるで壊れ物を扱うかのようにそっとベッドの上に下ろされた。




「お風呂……」

「時間が惜しい……」

「じゃあ、明かりを……」

「……ちっ」




舌打ちの後、暗くなる部屋。


これから、始まるのだ。

18歳が盛ってるなー、とか批判されるかもしれない。

けれど、今夜は特別なのだ。消えてしまう前に、体験したいのだ。もう、機会は二度と訪れないだろうから。

エリザベス女王みたいに、一生ヴァージンでもいいと思った。でも、女子の憧れなんだ。


そこは、わかってほしい。わかってくれなくては、困る。好きな人と……することを。




カイルさんは優しく、わたしをいたぶる。

まずは指先で、わたしを甘く奮わせる。頬、唇、首、鎖骨、そしてだんだんと降りていき……

わたしのとてもお世辞では言えない、膨らみへと到達する。


とても、不思議な感覚。変、と言ってもいい。

何を思っているのか、何を感じているのかは自分でもわからない。けれど、イヤではないのだ。


徐々にその指先はドレスの後ろへと回り、脱がそうとその手を伸ばす。



でも、羞恥心の方が勝り抗議の声を上げる。




「ダメ……」

「無理だ」

「イヤ……」

「感じているのにか?」




そう言うと、ほのかに月明かりで明るいの中でもわかるくらい、不敵にニヤリと笑われる。

そして、先端を布越しに弾かれた。



その瞬間、表現できないぐらいの甘い電流が身体を駆け巡り、わたしは鳴いた。



「ほら、身体は正直だ。大丈夫、俺も脱ぐから」

「……イヤ」

「怖くない。ダンスのときみたいに俺がリードしてやるから安心しろ」

「でも……」

「……優しくするから、な?」




と、わたしの唇にキスを落とされる。チュッ……と音をたてて離れる唇。

イヤでも頷くことしかできなかった。


ファスナーに手をかけられてぎゅっと目を瞑るわたし。




「カノン……目を開けろ」

「……」

「俺だけを、見るんだ。俺しか、見るな」

「……っ!」




命令口調でそう言われては敵わない。

わたしは目を開けると、目と鼻の先にカイルさんの蒼い瞳があり息を飲んだ。





……そこからは、うろ覚えでしか覚えていない。


言葉通り優しくわたしを翻弄し、巧みに操る。


泣いて、鳴いて、喘いで……唇が、わたしの身体中に遊ぶ。


一糸纏わぬ姿で重なる熱い身体。自然と汗が滲み出る。





ひとつになったとき……


ああ、これで思い残すことはない、と思った。