――テューロ。
もう はっきりと思い出せない
記憶の中で、
かつて母と呼んでいた女人が、
泣いている。
――テューロ、行かないで……。
大丈夫だよ、母さん。
僕が、僕が貴方を守るから。
伸ばされた彼女の手に
握らされたのは、
金貨10枚が詰まった袋。
その袋を見た彼女の瞳に
一瞬 過ぎった光を、
俺は今でも覚えている。
俺を想い泣いてくれる その姿も、
結局は俺の母親だから。
“俺”ではなく、
“息子”を見ている。
――テューロ……っ。
ああ、その名を呼ばないで。
それを貴方が呼ぶ度、
僕は死んでいく……。
思い出なんて。
感情なんて。
無くしてしまえば、
もう、楽に なれる……?