向かった独房は、1番 奥の、
普段 滅多に使われない所だった。
あたし達の足音に気付いたのか、
独房の中で鎖に繋がれていた男が
顔を上げた。
こいつが、帝国のスパイ。
まだ若い。
ぱっと見は
あたしと同じくらいに見えたけど、
良く良く見ると日里よりも
歳下なんじゃないかとさえ思う。
まだ幼さを残した その綺麗な顔が
大人っぽく見えるのは、
瞳に浮かぶ陰険な光が原因のようだ。
襟足が肩に付くくらいの長さの蒼髪。
前髪は短く切られていて、
泥や血が こびり付いているのに、
不思議と綺麗に見える。
銀の瞳には、鬱屈した暗さが見えた。
「どうやら目覚めたようだな。」
父さんが声を掛ける。
彼は長い睫毛に縁取られた瞳で、
父さんを見つめた。
「私は この“最果ての刑務所”の
所長だ。」
父さんの言葉に、
スパイは眉を顰める。
最果ての刑務所の事は
知っているらしく、
黙ったまま次の言葉を
待っているように見えた。


