「此処にテューロと言う子供は居るか。」
村に やって来たのは、1組の男女だった。
歳は2人共40代くらいで、
上質な布で作られた服を着ていた。
村の長老に呼ばれ、
母さんと一緒に男女の前に引き摺り出される。
「間違いないか。」
「はい、間違いありません。」
男の問いに、懐から紙を取り出した女が
僕と紙を交互に見てから頷く。
男は僕に向き直ると、その手を差し伸べた。
「私は、帝都に在るスパイ管理所の者だ。」
「……スパイ、管理所……。」
幼い僕でも知っている その場所は、
文字通り戦争中の時和王国に
スパイとして派遣される人々を
管理する場所だ。
「君の入校が決定した。」
その言葉に、村中が どよめいた。
「ちょ、ちょっと待って下さい!
入校って……。」
母さんが震えながら僕の肩を引き寄せる。
「皇帝命令の特例だ。」
母さんの問いに、男は簡潔に答えた。
「……まっ、待って下さい!!
私は、子供を亡くしたばかりで……
夫も……夫も失って……っ。」
母さんは必死に言葉を紡ぎ、首を横に振った。


