「何故、それを?」
「昨日、お前の父親が
そう言っていた。」
「そう、なんだ……。」
瞬は暫く沈黙した後、
柔らかい微笑みを浮かべた。
「うん、そうだよ。
俺に お袋は居ない。
10年前に、
帝国のスパイに殺されたんだ。」
「……スパイは滅多に
王国の人間を殺さない筈だが?」
王国の人間を殺すと言う事は、
彼等の家族や友人に恨まれ、
余計な憎悪を生み、
行動が起こしにくくなる、
と言う事に繋がる。
それでは、自分で自分の首を
絞めているようなものだ。
「親父は その時、
王立騎士団の副団長で、
お袋を人質に取られたんだ。
お袋を助けるか、
王国の機密情報を渡すかと言う
選択を迫られた親父は、
当時の国王の意見によって、
お袋を見殺しに した。
それだけの事さ。」
自分の母親を殺されたのに、
瞬の言葉に憎しみや怒りは
感じられない。
この青年は、
若いのに理解している。
憎しみは憎しみしか
生まないと言う事を。


