神様修行はじめます! 其の三

目を細めてクスクス笑っている凍雨君に、門川君が話しかける。


「一族の移動は、もう完全に済んだのかな?」


「はい! みんな戻ってこられて本当に喜んでいます!」


「長く不遇の時を過ごしたでのぅ。喜びも、ひとしおじゃろうて」


一族の移動? 不遇の時? なにそれ?


疑問な表情のあたしに、絹糸が説明してくれた。


「氷血の一族は、草も生えぬような極寒の地に長年閉じ込められていたのじゃよ」


「え!? なにそれなんで!?」


閉じ込められるって、なに!?


・・・あ、そういえば、今まで一度も会った事ないよね?


氷血の一族の人に。だれひとり。


「分かるじゃろう? 華子の差し金じゃよ」


あ・・・そっか。なるほど。


奥方の、門川君のお母さんに対する憎しみたるや、もう尋常じゃなかった。


淡雪(あわゆき)憎し。


坊主憎けりゃ袈裟まで憎いの典型例みたいな人だった。


お母さんは氷血の一族の人だったから。


憎しみの矛先が、一族全てにまで及んだんだ。


「氷血の一族でなければ、一日と生きてはおられぬ過酷な地じゃ」


「雪と、風と、氷。それ以外には何ひとつ無い土地でした」


「そんな・・・どうやって生き延びたの?」


「月に一度だけ、門川から運ばれる僅かな食料が命綱でした」


「・・・すまない・・・」


門川君が辛そうな声で謝罪した。


「僕の力ではどうにもできなかった。母上の一族が、そんなに辛い目にあっていたというのに」


門川君の目が悲しそうな色に染まる。

心底申し訳なく思っているんだろう。