やがて、彼女の形は完全に崩れ落ち、色も、魂も、すべてが抜け落ちた。

彼女がいた場所に、小さな砂山。

これが、一人の女性の証。

数奇な人生に翻弄され、罪を犯し、罪を贖い、癒された人。

そして最期に、望んだ愛を得て救われた人。


夫の指先が、その砂に触れている。

まるで、たまきさんと触れ合うように。

それは幻影でしかない存在だけれど、あたしは信じる。

ふたりは、やっと巡り会えたんだ。

そして帰った。

どこかへ。

きっとふたりが望んだ、どこかの場所へ。


「雛型、いや、たまきよ。やっと逝けたか・・・」


絹糸が静かに語りかける。


「よくぞ耐えた。もうよい。何処なりと望む場所へ行くがよいわ。お前達はもう、二度と・・・」


その言葉の続きを、絹糸は口にしなかった。

ただ黙って、いつまでも砂と幻影を見つめていた。

もの言わぬ青白い背中は、とても物悲しくて・・・。


あぁ、そうだ。
永世おばあ様が亡くなった時も、こんな風だった。

こんな風に絹糸は、じっと何かに耐えていた。

絹糸にとっても、千年に渡る因果が、ようやく・・・。


不意に、まるで絹糸の言葉に応えるように、夫の幻影が掻き消えた。

そして砂の山が風に吹かれ、どこかへ飛んでいく。


どこへ?

・・・ううん。

いいんだ。あたし達は知らなくていい。

どこへなりと、行けばいい。


いいんだ。


もう、いいんだよ・・・・・。



あたしも、門川君も、絹糸も、暗闇の中、ふたりを見送る。


何処とも知らぬ道行きに、手を携えて去っていくふたりを。


ふたりを・・・・・・。