―― ポウ・・・
堰を切ったように咽び泣く雛型の背中に、小さな明かりが灯る。
あれはなんだろう?
明かりは蛍のように、暗闇の中をユラユラ舞い、少し離れた場所に降り立った。
小さな光は徐々に大きくなり、そして幻影のように、人の姿を形作っていく。
・・・あれ? あの姿、どこかで見た記憶があるんだけど。
あの人、だれだっけ、えぇと・・・
『きっときっと迎えに行くよ』
その声を聞いた途端、雛型の泣き声がピタリと止んだ。
彼女はガバッと起き上がり、そして声の方へ向き直る。
幻影を確認して、悲鳴のように叫んだ。
「・・・あなた! あなた!!」
・・・そうだ! あれは雛型の夫だよ!
全身傷だらけで、ズタボロで見る影もないけど間違いない!
いったい何が起こってるのこれ!?
幻影の夫は、フラフラと倒れそうになりながら歩いていた。
その顔中が腫れ上がり、紫色に変色してしまっている。
ぼろぼろに破けた服から見える部分は、血だらけ。
ズルズル足を引きずって、生きてるのが不思議な状態で、それでも彼は歩いている。
ぶくりと腫れた唇が、うわ言のように囁いた。
『死なない・・・。きっと迎えに行くと約束、したんだ・・・』
あ・・・そう、か。
門川に捕らわれ、一族へ引き渡された後、てっきり死んだとばかり思っていたけれど。
彼は死んではいなかった。生き延びていたんだ。
雛型を迎えに行く、その一念だけを支えに瀕死の淵から生き延びたんだ。
雛型は愛する夫の姿を、縫い付けられるように見つめていた。
千年も前に消え去った夫が、生きて動いている様を。
その光は、彼のその後の生涯を、走馬灯のように克明にあたし達に見せてくれた。
夫は端境一族からなんとか抜け出し、他の一族に紛れ、ひっそりと名を変えて生きていた。
誰にも知られず、誰とも関わらず。
孤独の中で、それでも彼は、ひとりで懸命に待ち続けた。
雛型を迎えにいける日を。
ふたりの約束が果たせる日を。
堰を切ったように咽び泣く雛型の背中に、小さな明かりが灯る。
あれはなんだろう?
明かりは蛍のように、暗闇の中をユラユラ舞い、少し離れた場所に降り立った。
小さな光は徐々に大きくなり、そして幻影のように、人の姿を形作っていく。
・・・あれ? あの姿、どこかで見た記憶があるんだけど。
あの人、だれだっけ、えぇと・・・
『きっときっと迎えに行くよ』
その声を聞いた途端、雛型の泣き声がピタリと止んだ。
彼女はガバッと起き上がり、そして声の方へ向き直る。
幻影を確認して、悲鳴のように叫んだ。
「・・・あなた! あなた!!」
・・・そうだ! あれは雛型の夫だよ!
全身傷だらけで、ズタボロで見る影もないけど間違いない!
いったい何が起こってるのこれ!?
幻影の夫は、フラフラと倒れそうになりながら歩いていた。
その顔中が腫れ上がり、紫色に変色してしまっている。
ぼろぼろに破けた服から見える部分は、血だらけ。
ズルズル足を引きずって、生きてるのが不思議な状態で、それでも彼は歩いている。
ぶくりと腫れた唇が、うわ言のように囁いた。
『死なない・・・。きっと迎えに行くと約束、したんだ・・・』
あ・・・そう、か。
門川に捕らわれ、一族へ引き渡された後、てっきり死んだとばかり思っていたけれど。
彼は死んではいなかった。生き延びていたんだ。
雛型を迎えに行く、その一念だけを支えに瀕死の淵から生き延びたんだ。
雛型は愛する夫の姿を、縫い付けられるように見つめていた。
千年も前に消え去った夫が、生きて動いている様を。
その光は、彼のその後の生涯を、走馬灯のように克明にあたし達に見せてくれた。
夫は端境一族からなんとか抜け出し、他の一族に紛れ、ひっそりと名を変えて生きていた。
誰にも知られず、誰とも関わらず。
孤独の中で、それでも彼は、ひとりで懸命に待ち続けた。
雛型を迎えにいける日を。
ふたりの約束が果たせる日を。


