神様修行はじめます! 其の三

「どの道も・・・」

あたしの手が雛型の頬に触れる直前、雛型の唇が動いた。

「どの道も、無いのですか・・・?」

あたしは伸ばした手を引っ込めて、雛型の言葉の続きを待つ。

門川君も絹糸も、黙って雛型の言葉が溢れ出るのを聞いていた。

あふれるものを、あふれるままに。


「どの道も・・・どの道も、無かったのですね・・・」


私は夫を愛していました。
愛する人を助けたかった。

でも、愛する人の命を救う行為は・・・大罪でした。

愛する人に、生きて欲しいと願ったことで、この世に死が溢れ、憎しみが充満した。


私は、夫を見殺しにしなければならなかったのです。

でも、それができなかった。

どうしても、どうしても、どうしてもどうしてもどうしても・・・

どうしても、できなかった。


だから私は罪を選び、その代償に、全てを失いました。

夫を見殺しにさえすれば、失わずに済んだもの。

夫も含めて、みんなみんな失った。


世の人々の命。

人々の穏やかで平穏な心。

端境一族の地位と未来。

父、母。妹。

まだ見ぬ・・・罪無き我が子。

きっと迎えに来ると誓ってくれた、夫。