神様修行はじめます! 其の三

「里緒、もう今しかないから、あんたにも謝罪・・・」

「聞かない!」

「いろいろ、辛い思いをさせてしまっ・・・」

「わーわーわー! 聞こえないー!」

あたしは両耳を塞ぎ、大声を出して首を振った。

最後の謝罪の言葉なんか聞かない。受け入れるもんか。
だって・・・


「だって塔子さんは死なないもの!」

「里緒・・・」

「塔子さんは死んじゃダメなんだ! あたしがきっと助けるんだから!」


叫んだ拍子に涙がこぼれた。

あたしは歯を食いしばり、唸り声を上げながらほふく前進する。

絶対に死なさないよ! こんな間違い、許すもんか!


腕からも足からも力が抜けて、怪我した両腕から血が流れて、痺れて、感覚が無くなって、まともに動けなくても。

・・・それでも諦めない! それでもあたしは諦めない!


あたしは頬を地面に押し当てて動かし、ザリザリと土を掻く。

手足のかわりに、頭だけでも動かして先に進もうとした。

必死だった。無我夢中だった。

なりふりなんてかまってられない。可能も不可能もない。

やるんだ! やれ!


「塔子さんをあたしが助けて、これからも一緒に生きていくんだからー!」
「里緒・・・」


小さな、囁き声。

それは今まで、聞いた事もないような優しい声だったから、あたしは思わず塔子さんを見上げる。

死に瀕した彼女は、信じられないぐらい穏やかな表情で、優しくあたしを見つめていた。


「ごめんなさいね・・・里緒」


その言葉と同時に、塔子さんの片足が動いた。

足元のマロを、最後の力を振り絞って思い切り蹴り上げる。

マロの体はポーンと弧を描き、あたしの隣にドサリと落ちた。


そして・・・
バランスを崩した塔子さんの体は、ついに・・・

ついに、あたしの目の前でガレキに押し潰され、見えなくなった。