神様修行はじめます! 其の三

イモ虫みたいにみっともなく這いずりながら、あたしは怒鳴った。

塔子さんはなにも悪い事してないじゃん!

塔子さんが、門川君のお母さんを殺したわけじゃないんだよ!?

その罪は、塔子さんが負うべき罪じゃない!

門川君を犠牲にして、綺麗な着物を着ておいしい物を食べたから!?

それがいったい何だってのさ!

塔子さんがした事は、罪でもなんでもない!


門川君の為に、死に物狂いで修練を積んで、自分の結婚も一生も幸せも、全て彼に捧げようとした。

この戦いで、立派に門川君を守った。

・・・これのどこが罪だってのさ!

塔子さんのした事で、罪になるような事なんかひとっつも無いよ!

ひとっっつも無い!


「塔子さんが償うことなんか、無いんだ!」

「里緒・・・あんた、言ってくれたわ・・・」


途切れ途切れに、息もままならぬ塔子さんが答える。

限界を越えた苦痛。死の寸前。

命の明かりが吹かれて揺れて、少しずつ、でも確実に消えていく。

目の前の、塔子さんの大切な命が消えていく。


「それが救いになるのなら、償うことは悪い事ではないと、言ってくれた・・・」


死の苦悶の顔が、少しだけ緩んだ。


「あの言葉で・・・私は、救われたのよ・・・」

「そんな哀しい救いなんか、ないよ!」


なんで!? なんでなんでなんで!?
こんなの絶対に間違ってる!


罪は拡散する。

苦しみも癒しも許しも、無碍に広げてしまってはいけないものなのに。

なのに人は、傷を広げて自らを苦しめていく。

なぜなら、人の心は弱くて正しいから。

誰もが罪を許さぬ正しい心と、人を許せぬ弱い心をもっているから。

だから・・・だからこそ、間違えてはならない。


「塔子さんに罪は無い!」


あなたは罪を犯していない!

あなたが・・・その命をもって母の罪を償う必要など、決してない!