ある夜、見舞いの品を手に母上の寝所を訪れると、中から小さな話し声が聞こえてきた。
それは父上の声と、母上の泣き声だった。
足が止まり、つい立ち聞きする形になってしまう。
そうして聞くともなしに聞いてしまった話は、あまりにも驚愕の事実だった。
『淡雪様をこの手で殺めた、あの感触が忘れられないのです』
『言うな。奥方様の密かなご命令とあれば、逆らう事はできぬ』
『はい。逆らえば怒涛の一族は断絶されましょう。でも・・・』
『お前は塔子をはじめ、皆の命を守ったのだ。そう信じて耐えろ』
『・・・・・・』
『代わりに我ら一族は、頂点を極めたのだ』
『そんなもの、一族の誰ひとりとして望んではおりませんでした。幼い永久様に、あまりにも申し訳なくて・・・』
すすり泣く母上の声。
沈黙する父上の苦悩の気配。
私は、呆然と立ち尽くしていた。
そしてようやく、愚かな私は全てを理解した。
おとぎ話のように幸運が転がり込んで、何の苦労も無くお姫様になった私。
そんな・・・
そんな事が、現実にあるわけがなかった。
理由があったのだ。
夢を叶えた代償があったのだ。
その代償を払ったのは、母上。
母上がその手を血で汚し、人殺しになった代償で叶った夢。
あんなにもあんなにも渇望していた、私の夢は・・・
『そんなもの、一族の誰ひとりとして望んではおりませんでした』
・・・・・・
私・・・は・・・
望んでいた。
そしてひとりで、天狗の鼻を振りかざし、勝ち誇っていたのだ。
それは父上の声と、母上の泣き声だった。
足が止まり、つい立ち聞きする形になってしまう。
そうして聞くともなしに聞いてしまった話は、あまりにも驚愕の事実だった。
『淡雪様をこの手で殺めた、あの感触が忘れられないのです』
『言うな。奥方様の密かなご命令とあれば、逆らう事はできぬ』
『はい。逆らえば怒涛の一族は断絶されましょう。でも・・・』
『お前は塔子をはじめ、皆の命を守ったのだ。そう信じて耐えろ』
『・・・・・・』
『代わりに我ら一族は、頂点を極めたのだ』
『そんなもの、一族の誰ひとりとして望んではおりませんでした。幼い永久様に、あまりにも申し訳なくて・・・』
すすり泣く母上の声。
沈黙する父上の苦悩の気配。
私は、呆然と立ち尽くしていた。
そしてようやく、愚かな私は全てを理解した。
おとぎ話のように幸運が転がり込んで、何の苦労も無くお姫様になった私。
そんな・・・
そんな事が、現実にあるわけがなかった。
理由があったのだ。
夢を叶えた代償があったのだ。
その代償を払ったのは、母上。
母上がその手を血で汚し、人殺しになった代償で叶った夢。
あんなにもあんなにも渇望していた、私の夢は・・・
『そんなもの、一族の誰ひとりとして望んではおりませんでした』
・・・・・・
私・・・は・・・
望んでいた。
そしてひとりで、天狗の鼻を振りかざし、勝ち誇っていたのだ。


