神様修行はじめます! 其の三

ある夜、見舞いの品を手に母上の寝所を訪れると、中から小さな話し声が聞こえてきた。

それは父上の声と、母上の泣き声だった。

足が止まり、つい立ち聞きする形になってしまう。

そうして聞くともなしに聞いてしまった話は、あまりにも驚愕の事実だった。


『淡雪様をこの手で殺めた、あの感触が忘れられないのです』

『言うな。奥方様の密かなご命令とあれば、逆らう事はできぬ』

『はい。逆らえば怒涛の一族は断絶されましょう。でも・・・』

『お前は塔子をはじめ、皆の命を守ったのだ。そう信じて耐えろ』

『・・・・・・』

『代わりに我ら一族は、頂点を極めたのだ』

『そんなもの、一族の誰ひとりとして望んではおりませんでした。幼い永久様に、あまりにも申し訳なくて・・・』


すすり泣く母上の声。
沈黙する父上の苦悩の気配。
私は、呆然と立ち尽くしていた。

そしてようやく、愚かな私は全てを理解した。


おとぎ話のように幸運が転がり込んで、何の苦労も無くお姫様になった私。

そんな・・・
そんな事が、現実にあるわけがなかった。


理由があったのだ。
夢を叶えた代償があったのだ。

その代償を払ったのは、母上。

母上がその手を血で汚し、人殺しになった代償で叶った夢。

あんなにもあんなにも渇望していた、私の夢は・・・


『そんなもの、一族の誰ひとりとして望んではおりませんでした』


・・・・・・

私・・・は・・・

望んでいた。


そしてひとりで、天狗の鼻を振りかざし、勝ち誇っていたのだ。