神様修行はじめます! 其の三

「おお、怖い目! なんて恐ろしい!」


塔子さんが扇で顔を隠しながら大げさに怯えてみせる。


「その嫉妬に狂った目。欲望の表情。・・・きっとそっくりな顔をしていたのでしょうね」


ちらり・・・。

扇の陰から覗く一重の目。


「お前の祖父が永世様を襲った時も」


・・・・・!!!


あ・・・・・。


脳裏に甦る。

水絵巻で見た、あの時の情景。


あの時の・・・

じー様の、狂気に満ちた目。


心臓が、破裂しそうに大きく鼓動を打った。


衝撃のあまり体が硬直した。


全身を駆け巡る血が、針のように体中を刺して暴れる。


こわばる両目に涙が浮かんだ。


「小娘! しっかりせい!」


潤んでぼやけた視界に、あたしを見上げる金色の目が映る。


しま子があたしを抱き寄せ、夢中で背中を撫でさすった。


「お前は自分さえ良ければいいのね。自分の物にさえできれば、当主様がどうなっても構わないのね」


目から零れる涙を、しま子の胸元の赤い布地が吸い取る。


震える指で布地をぎゅうぅっと掴んだ。


「たいした『愛』ね。見上げたものだわ。さすが犯罪者の血のなせる業ねえ」