神様修行はじめます! 其の三

あたしと門川君の耳に、低い悲鳴が聞こえた。

「・・・塔子さん!?」

ひとり果敢に敵に立ち向かっていた塔子さんが、横倒しに倒れている。

その身に魔犬が覆い被さり、サイの角みたいに太い牙を、塔子さんの体に深々と突き立てていた。


白い襦袢が、彼女の鮮血で真っ赤に染まっている。

魔犬の牙が引き抜かれ、塔子さんの体がビクンと大きく跳ねて、赤い襦袢にさらに赤黒い血が舞った。

そして再び、魔犬が彼女の体に噛み付き頭を乱暴に振る。


「―――――!!」

塔子さんの口から、耐えるような声が漏れる。

「塔子殿!」

門川君が刀を手に、即座に塔子さんの元へ駆け寄った。


彼女を襲う敵に向かって切りつけようとする彼に、別の魔犬が大きく跳躍しながら襲い掛かる。

素早い太刀捌きで斬り払っても、また次々と別の魔犬が襲い掛かる。

自分を襲ってくる敵への対処で、門川君は塔子さんを助けるどころじゃない。


あ、あたしも行かなきゃ!
行って門川君と塔子さんを守・・・!


「う・・・あぁ~・・・」
「・・・しま子!」


命の危機にさらされる双方の味方を見比べながら、あたしはその場に座り込んでしまう。

残された最後の力で、あたしを見つめ続けるしま子の視線を受け止めながら、頭の中は完全にパニックだった。


しま子、凍雨君。
門川君、塔子さん。

・・・どうすればいい? 
あたしは今、何をどうしてどうすればいいの?

どうする事が正解なの?

なにをすればいい? なにができる?

千年前、夫を選んで世界を捨てた雛型の選択が、心に浮かぶ。

そしてあたしの答えは・・・

何も、ない。

あたしには、しま子も凍雨君も助けられない。

救っても、消えかけているふたりの命を助けることはできない。

だからといって、しま子を見捨てて向こうへ行くなんてできない。

ただこの場に座り込み、ふたりが死ぬのを確認するだけ。

ただ、それだけ。

ただそれだけが・・・

無力で、非力で、愚かで、ちっぽけなあたしにできる、唯一のことだ。