神様修行はじめます! 其の三

「しま子! しま子ぉ――!」

あたしは半狂乱になって叫んだ。

飛沫を浴びたしま子の全身あちこちが、不気味にドロリと溶けている。

黒い水の中の下半身が今どうなっているかなんて、想像したくもない!


さっきまで狂ったように暴れていた凍雨君は、もうピクリとも動かない。

完全に意識不明に陥っている。早く、一刻も早くなんとかしないと、ふたりとも死んでしまう!

でも、どうすりゃいいのさ!


あたしは、バカのひとつ覚えみたいに、ひたすら手を伸ばした。

こんな事したって、どうにもならないのは分かってる。

でも他にどうすればいいのか分からない。助ける方法がまったく分からない。なにひとつ浮かばない。


「が・・・ああぁー・・・」


しま子の叫び声が小さくなっていく。
もう、声を出す気力も失ってきているんだ。

沈んでいく。
しま子の体が、ズプズプと沈んでいく。


するとしま子が、肩に担いでいた凍雨君の体を両手に持って、自分の頭上高くに掲げた。


凍雨君を、酸の海から遠ざけるように。
彼を、なんとしてでも守ろうとするように。


しま子はあたしに、凍雨君を渡そうとしている。

しま子は、あたしの為に凍雨君を救おうとしたんだ。

あたしが、泣き叫んでいたから。

あたしが、酸の海に飛び込もうとしたから。

だから、泣き喚くあたしを守るために、あたしの身代わりになって自ら海の中へ飛び込んだ。


あたしの為に・・・。
自分の体が溶けてしまうことも承知の上で・・・。