神様修行はじめます! 其の三

―― ギャオォォッ!

その時、一頭の魔犬が塔子さんの頭上を飛び越え、門川君に飛び掛かった。

こ、このバカ犬! この非常事態になに考えてんのよ!
あんた達も、暢気に人間襲ってる場合じゃないでしょ!


侵食される門の様子に気をとられていた門川君が、ハッと向き直る。

とっさに片腕で刀を振り、なんとか敵を斬り付けた。

グラリと横倒しに倒れていく魔犬の巨体に、門川君の刀が巻き込まれた。

片手では握力が足りずに、門川君の手から刀が弾き飛ばされる。


「・・・あ」

白く透き通る美しい刀身が、ふわりと宙に浮き、緩やかな放物線を描いて飛んでいく。


「あ・・・あ・・・」

追い求める門川君が伸ばした指先から、遥か遠くへと刀は離れていく。

それを目で追う門川君は蒼白になり、涼しげな目は驚愕に見開かれ、口元はひどく歪んでいた

今にも悲鳴をあげそうな、泣きそうな顔で、彼は声にならない悲鳴をあげる。


『ははうえ・・・!』


あの刀き、門川君のお母さんの、たったひとつの形見の品。
それが酸の海に・・・!!

あたしは、無我夢中で刀に向かって両腕を伸ばした。

ガクッと体のバランスが崩れて、前のめりになった顔に風を感じる。
そして目に映るのは、黒い海。

・・・落ちる!

「天内君!!」

グイッ!っと背中部分を掴まれ、すごい力で引っ張り上げられた。

門川君が顔面蒼白になって、あたしを引っ張っている。

・・・刀に伸ばしていたその両腕で、あたしを。


その時、あたしの顔の横を、影が素早く横切った。

門の足場から、空に向かって大きく飛び上がったその影が、刀に向かって手を伸ばす。

「・・・凍雨君!?」