神様修行はじめます! 其の三

塔子さんと門川君が戦っている姿を、凍雨君は歯噛みしながら見守っている。

相性の悪い氷系の術を使ったりしたら、次は何が起こるか分からないから、彼は戦うことができないんだ。


しま子はあの酸の侵食が止まらなくて、背中を丸めて苦悶している。

皮膚が溶ける範囲は広まるばかりで、皮膚どころか肉までどんどん溶けていく。


そんな危機的状況で、あたしは気絶した絹糸を抱きかかえながら、高所の恐怖感に必死に耐えていた。

こ、怖い。
ここ、地上何メートルぐらいあるんだろう。

ゾッとするほどの高さで、足場の幅は1メートルもあるかないか。

当然つかまる場所なんて無い、吹きっさらしだ。

ビルの屋上のギリギリ端っこに、命綱無しで座り込んでいるようなものだ。

ペタンと座り込む腰に力が全然入らなくて、足が震えが止まらない。


怖くて下が見れないよ。見たら目を回して落ちてしまいそう。

犬みたいにハッハッと小さく呼吸を繰り返し、バクバク鳴る心臓を懸命になだめるので精いっぱい。

ざわざわと全身を這い上がる恐怖に、じっとり冷たい汗が噴き出てくる。


怖い、怖い、怖い!
塔子さんも門川君も、どうしてこんな恐ろしい場所で、平気で動き回れるの?

あたし、限界だよ! とてもじゃないけどこんな状況で、精神集中なんて無理!

ごめんなさい! みんな、ごめんなさい!


見事な剣さばきで戦い続ける門川君の背中が、涙で霞んだ。

あたしを守るために、彼が危険を冒している。

あたしが彼を守らなきゃならないのに、何もできないのが情けない!

しっかりしろよ! あたし!
空中ブランコよりよっぽどマシだろうが!

こんなん、高層ビルの窓拭きのバイトみたいなもんだ! 怖いことなんか何もない!

今ここで役に立てなかったら、落っこちるよりも後悔する事になるんだぞ!