神様修行はじめます! 其の三

さすがは絹糸! 偉い、よくやった! 亀の甲より年の功!

「皆、我の背に乗れ!」

絹糸の声に素早く反応した門川君が、あたしと塔子さんを絹糸の背中に強引に押し上げる。

ちょ、門川君、お尻! お尻触ってるんですけど!


しま子が、絹糸の首に両腕を回して抱き付く。

門川君が背中に飛び乗るや、絹糸が凍雨君の着物の襟を咥え、地を蹴って空中高く飛び上がった。


ほぼ同時に、あたし達が今の今まで立っていた場所が、黒い水に覆われてしまう。

ゴポゴポと不気味に気泡が泡立っているのを見て、こっちの肌が粟立った。

あ、危なかった。ギリギリセーフ!


あたし達全員を抱えた絹糸が、ひらりと門の上に降り立った。

下から見上げた時もずいぶん高いと思ったけど、上から見下ろすとマジ高い。足がすくむ。

眼下は泡立つ酸の海だし、門の上は幅が狭くて足場が悪いし。ここから落ちたら・・・。


ゴクリとツバを飲みこみながら、恐る恐る絹糸の背から降りた途端に、シュウゥっと絹糸の変化が解かれる。

絹糸はそのまま、パタリと力無く倒れてしまった。

「絹糸!?」


急いで抱きかかえた絹糸は、完全に意識が途切れていた。

やっぱり、ものすごく無理していたんだ。
ごめんなさい。ありがとう絹糸!


ギュッと絹糸を抱きしめるあたしの視界の端に、白い刀が光る。

顔を上げると門川君が刀を構えていて、塔子さんも険しい表情で身構えている。


嫌な予感にゆっくり後ろを振り返れば、魔犬たちがゾロゾロと、門の上を伝い歩いてこっちへ向かってくるのが見えた。


・・・おい、ちょっと? いったい何匹いるの?

絹糸は意識不明だし、しま子はひどい怪我してるし、門川君は術が使えない。

しかもこの足場の悪い高所で、下は一面酸の海。

こりゃあ・・・なかなか盛り上がってきたもんだ。

あたしは、再びゴクリとツバを飲み込んだ。