魔犬の全身が、霜が降るようにピシピシと真っ白に凍り付いていく。


傷口から溢れる血液すらも、一瞬で凍り付いてしまう、この冷気の凄まじさ。


うげ、この魔犬の血液、粘ってるぅ。

しかも、妙にドス汚れた茶色の血。

異形のモノたちの血って、なぜかみんなグロいんだよなぁ。臭いもキツイし。

ひょっとして発酵してんのかな?

じゃ、実は意外と体に良いとか?


なんて事を考えているうちに、魔犬はその場に斃れてしまった。

そういや忘れてた。
印が組めなくても、彼にはお母さんの形見の刀があるんだっけ。

それにしても・・・。


「あのぉ、門川君?」

「なんだ?」

「・・・痛い」

「ん?」

「ほっぺ。痛いんですけど」


なんかね、さっきからほっぺがね、ジリジリずきずき痛むの。


刀が頬の横を、ギリギリすり抜けていった瞬間から。


「あぁ、少々血が出ているようだな。おそらく余波で切れたんだろう」

「・・・・・・」


血? 切れた?

あたしのほっぺ、切られちゃったの?

原因、あなた?


「あぁ。どうやらそのようだ」

「・・・」

「だが傷は浅い。大丈夫だ」

「・・・・・・」

「この程度の事など気にするほどの事でもない」

「あんたが言うなー!」


なんであんたがそのセリフを言うか!?

『気にしなくても大丈夫』って、そりゃあたしが言ってあげるセリフでしょ!?


言う気なくなったけど! 完全に!