神様修行はじめます! 其の三

『雛型は渡さぬ。一族も降伏などせぬ』

「降伏とは、敗北なり。門川への、復讐が叶わぬならば・・・玉砕、あるのみ」


カパカパと作り物のようにマロの唇が動く。

霞んだ黒い瞳は、まったく現実を見ていない。

完全に誰かに操られているのは明らかだった。


「気が緩んだ瞬間を狙われて、術に嵌められてしもうたか!」


絹糸が悔しげに叫んだ。

なんてこと! もう少しだったのに!

もう少しで、やっとのことで、マロも端境も癒しの光が見えてきたところだったのに!


あたしはギリギリ歯噛みした。


信じられない! あんの長老ババめ!

密かにマロに張り付いて、ずっと機会をうかがっていたな!?


ここまで他人を犠牲にして、我欲を叶えたいか!?

そんなに門川を、世界をその手に牛耳りたいのか!?

そんなに全てを手中に収めたいか!?


こんの、ウルトラ強欲因業ババー!!

お前絶対、貯金通帳に億単位の預金残しながら、栄養失調で餓死するタイプだな!?


「マロ、しっかりして! 操られちゃダメ!」

「これは、麻呂自身の、意思であり、選択である!」


マロの両手が印を組んだ。

キィンと耳の奥を掻き毟るような音がして、あたし達の背後で光が点滅する。


振り返ると、高々とそそり立つ暗黒の門のあちこちが、無数に光っていた。


黄色い三角形の結界術の光が、門を守護する巨大な暗黒の犬の像を包み込んでいる。


やがて暗黒犬の目に、次々と黄色い光が宿り始めた。


―― ビキ・・・


硬質な鈍い音と共に、暗黒犬の体が動き出す。


ギシギシとぎこちなく体を伸ばし、四肢を震わせ、永劫の楔から解き放たれたように・・・


―― ギャアァオォ―――ッ!!


天を見上げ、凄まじい咆哮を放った。


命を宿した暗黒犬は、その巨大な体躯を翻して、あたし達を目掛けて猛然と襲い掛かってきた。