神様修行はじめます! 其の三

マロは戸惑っているのか、ほんの僅かに浮かんだ自分の笑顔を隠すように、俯いてしまう。

どうしても、わだかまりがあるんだろう。


今後の展開の不安もあるだろうし、自分の判断が、一族に受け入れられるかどうかも気掛かりだろうし。


「でもマロ、心配ないよ。端境のみんなは分かってくれる。復讐なんかより、笑顔の未来を選んでくれるよ」


「笑顔の、未来・・・」


「そうだよ。道のりは遠いかもしれないけど、その先にはきっと癒しの・・・」


「笑顔、に、なんの意義がある?」


・・・・・・


え?


「笑って、過ごす事に、なんの、意義がある?」

「マロ?」


俯いた彼の表情は、よく見えない。

まるで不調な機械のように唇が動いて、無機質な声が聞こえるばかりだ。


「マロ? どうし・・・」

「我ら、端境は、誇り高き名門一族。阿呆、のような、笑いなど不要」

「マ・・・」

「敗北も・・・不要」


―― カサカサカサ・・・


マロの耳元に、小さく蠢く黒い影があった。

あれは、何だろう?

細く長い複数の足。

マダラに染まった、毒々しい色。

その大顎が、カクカクと動いて・・・

女の声で、マロの耳元で、何事かを囁いて・・・いる?


『敵の言動に惑わされ、敗北を記するぐらいなら・・・』

「一族、全員、討ち死にを、選ぼうぞ」


抑揚のない言葉を吐きながら、ゆっくりと持ち上げられたマロの顔に、彼自身の意思は完全に失われていた。


あれは、蜘蛛だ!!

蜘蛛の糸!?