「どうか聞いてくれ。門川一族を永遠に封じ込めたところで、端境一族が救われることは決して無いんだ」
「救われる!」
門川君の言葉に覆い被さるようにマロが叫ぶ。
「救われるとも! 癒されるとも! それでしか我らの傷は癒されぬでおじゃる!」
「違う。それは癒しではない」
涙混じりの叫びに対し、門川君の答えは一見冷たいほどに落ち着き払っていた。
そうだ。取り乱してなんかいられない。
だって、門川君は癒さなければならないから。
マロの心を。端境の民の心を。
知らずに端境一族をないがしろにし続けた、当主としての自分の罪を償うために。
だから、何があろうと端境に、復讐の刃を剥かせるわけにはいかない。
絶対に、彼らを自滅させるわけにはいかないんだ。
「門川一族を消し去る事が、端境一族の幸せではないのだ」
「幸せでおじゃるとも!」
飛び出そうなほど両目を剥き出し、マロは反論した。
「憎い相手に復讐を果たす! この悲願の達成ほど、幸せなものはないでおじゃる!」
「違う」
門川君は、断固として首を横に振った。
「仮に一時の愉悦は味わえても、それは幸福とはまるで異質なものだ。僕はそれを知っている」
門川君は、その手で奥方の華子を倒した。
自分の事を虐げ続けた、宿敵ともいえる相手を。
悲願ともいえるその瞬間、彼は・・・
泣いていたんだ。
血塗れになり、奥方と共に床に倒れながら、彼は泣いた。
そこには満ち足りるような幸福感など、皆無だった。
達成感すら、無かった。
彼はその身をもって、引き裂かれるような痛みと虚しさを知っている。
「すでに天内君と出会っていた僕には、分かっていた。本当の幸せというものが、どんなものなのかを」
「救われる!」
門川君の言葉に覆い被さるようにマロが叫ぶ。
「救われるとも! 癒されるとも! それでしか我らの傷は癒されぬでおじゃる!」
「違う。それは癒しではない」
涙混じりの叫びに対し、門川君の答えは一見冷たいほどに落ち着き払っていた。
そうだ。取り乱してなんかいられない。
だって、門川君は癒さなければならないから。
マロの心を。端境の民の心を。
知らずに端境一族をないがしろにし続けた、当主としての自分の罪を償うために。
だから、何があろうと端境に、復讐の刃を剥かせるわけにはいかない。
絶対に、彼らを自滅させるわけにはいかないんだ。
「門川一族を消し去る事が、端境一族の幸せではないのだ」
「幸せでおじゃるとも!」
飛び出そうなほど両目を剥き出し、マロは反論した。
「憎い相手に復讐を果たす! この悲願の達成ほど、幸せなものはないでおじゃる!」
「違う」
門川君は、断固として首を横に振った。
「仮に一時の愉悦は味わえても、それは幸福とはまるで異質なものだ。僕はそれを知っている」
門川君は、その手で奥方の華子を倒した。
自分の事を虐げ続けた、宿敵ともいえる相手を。
悲願ともいえるその瞬間、彼は・・・
泣いていたんだ。
血塗れになり、奥方と共に床に倒れながら、彼は泣いた。
そこには満ち足りるような幸福感など、皆無だった。
達成感すら、無かった。
彼はその身をもって、引き裂かれるような痛みと虚しさを知っている。
「すでに天内君と出会っていた僕には、分かっていた。本当の幸せというものが、どんなものなのかを」


