神様修行はじめます! 其の三

「どうか聞いてくれ。門川一族を永遠に封じ込めたところで、端境一族が救われることは決して無いんだ」

「救われる!」


門川君の言葉に覆い被さるようにマロが叫ぶ。


「救われるとも! 癒されるとも! それでしか我らの傷は癒されぬでおじゃる!」

「違う。それは癒しではない」


涙混じりの叫びに対し、門川君の答えは一見冷たいほどに落ち着き払っていた。


そうだ。取り乱してなんかいられない。

だって、門川君は癒さなければならないから。

マロの心を。端境の民の心を。


知らずに端境一族をないがしろにし続けた、当主としての自分の罪を償うために。


だから、何があろうと端境に、復讐の刃を剥かせるわけにはいかない。


絶対に、彼らを自滅させるわけにはいかないんだ。


「門川一族を消し去る事が、端境一族の幸せではないのだ」

「幸せでおじゃるとも!」


飛び出そうなほど両目を剥き出し、マロは反論した。


「憎い相手に復讐を果たす! この悲願の達成ほど、幸せなものはないでおじゃる!」

「違う」


門川君は、断固として首を横に振った。


「仮に一時の愉悦は味わえても、それは幸福とはまるで異質なものだ。僕はそれを知っている」


門川君は、その手で奥方の華子を倒した。

自分の事を虐げ続けた、宿敵ともいえる相手を。

悲願ともいえるその瞬間、彼は・・・


泣いていたんだ。


血塗れになり、奥方と共に床に倒れながら、彼は泣いた。

そこには満ち足りるような幸福感など、皆無だった。

達成感すら、無かった。


彼はその身をもって、引き裂かれるような痛みと虚しさを知っている。


「すでに天内君と出会っていた僕には、分かっていた。本当の幸せというものが、どんなものなのかを」