神様修行はじめます! 其の三

我らは、人生の全てを管理された。

衣服の生地の種類や、食事の菜や、汁の中身にいたるまで。


意思や理想を持つ事は許されず、権利も、選択も、自由も存在しない。


目の前にあったものは、門川から下される命令だけ。


端境は、なんにでも従った。従わされた。


従わなければ、生きていけなかったから。


日常の雑多な事から、門川の糞尿の始末まで。


戦場で死んだ者たちの遺体の回収も、われら端境の役目だった。


ちぎれた手足、飛び出た内臓。


『英霊たちに敬意を表し、素手で抱えて運べ』と言われ、死臭ただよう血まみれの臓物を手で掴み、運んだ。


「門川に・・・」

語り続ける麻呂の唇が震えて、怒りの表情がクシャリと崩れて、泣き顔になった。


「門川に命令された期限に間に合わせるため、時には、幼い子どもにまで惨たらしい臓物を運ばせた」


表情を失った幼い顔が、腐った臓を抱えて運ぶ。


臭いと血の染みこんだ体は、いくら洗っても元には戻らない。


それでも洗った。

必死に洗った。

湯などは贅沢品だから使えず、川の水で。


どんなに寒くても、川の水で懸命に洗った。


でも洗っても、洗っても、洗っても洗っても洗っても洗っても・・・


落ちない。


川の水の冷たさに体は芯まで冷え切り、凍え、痛みと辛さに耐え切れず、子ども達は泣き叫ぶ。


泣く子を洗う親もまた・・・泣いた。


共に泣きながら、我が子の穢れを落とそうと、必死に必死に洗い続けた。


「でも、落ちぬのじゃ・・・。どうしても、どうしても、落ちぬのでおじゃる・・・」


マロの目から次々と涙が落ちる。

頬のお白粉が涙で落ちて、たくさんの筋になった。

化粧が剥げて地肌が覗く。

その肌は平安貴族とは程遠い・・・日に焼けて、荒れた肌だった。