神様修行はじめます! 其の三

・・・うん。
違うんだ。その喜びは違う。

偽物なんだよ。
だって、千年前に起きた事だというのなら・・・


「罪も、償いも、癒しも赦しも、全ては千年前のものでしかありえない」


時は千年、流れてしまった。

その時の罪を責める事ができる人なんか、もう誰も居ない。


被害者には、加害者を責める権利がある。

でも加害者の子や、孫や、ひ孫にまで、罪の償いを要求する事はできないはずだ。


其の罪は、其の者だけのもの。

其の癒しも、其の者だけのもの。

罪も償いも癒しも赦しも、全ては当人同士だけのもの。


ある意味、非情であるのかもしれない。

だがそれが道理だ。

罪の波紋は広がりやすいからこそ、間違えてはならない。


被害者が救いを求めて責める行為と、弾劾とや誹謗とを、同意義と考えてはならない。


それを間違えては、再び大きな悲劇が起きるだけだ。


「なにを言うでおじゃるか! 端境一族には、雛型と共に門川を責め恨む権利があるのでおじゃる!」


ピシリと音をたてて扇を閉じ、門川君を指し示しながらマロが叫ぶ。

その白いこめかみに、くっきりと青い筋が浮かんだ。


「端境への酷い仕打ちの償いから逃げるつもりか!?」

「逃げはしない。それは僕の罪だ」

「ほう!? 認めるか!? ついに我らへの罪を認めるか!?」


険しい表情の片頬が上がり、マロは歪んだ笑いを見せた。


あたしは堪らず、ふたりの会話に割って入る。


「千年前に端境を奴隷にしたのは、千年前の門川だよ! 門川君の責任じゃないよ!」


「いや、僕の罪だよ。なぜなら僕は、何も考えようとしなかった」


「・・・考える?」


「そうだ。僕は、ただ、普通に受け入れてしまっていたんだ」