神様修行はじめます! 其の三

陰の篭もった低い笑い声が、扇の陰から漏れ聞こえる。


百も承知で乗ったって・・・。

じゃあお互い最初から、相手を利用してやろうと腹を探り合っていたわけ?


利用するだけ利用して、最後には殺してしまえばいいと?


なんて・・・陰惨な駆け引きだろう。


このマロは、あの恐ろしい蜘蛛の糸の術を、簡単に破ってしまったんだ。


つまり、それほどまでに彼は門川を恨み憎んでいる。


扇の上からじぃっとこちらを見据えている姿は、まるで千年前の端境の者が甦ったよう。


時を越えて、恨みを晴らしにきた亡霊の姿だ。


この平安の姿は、彼らにとっての誇りなんかじゃない。


それは怨嗟、怨念、呪縛の証。


千年間、積み重なった恨みの言葉として、門川に無言で見せ付けていたんだ。


あぁ・・・捕らわれている。

この人もずっとずっと、檻の中に捕らわれてしまっている。


生まれてこのかた一度も、癒されること無く・・・。


「千年前に門川が犯した罪、今ここで償ってもらおう」


その声には歓喜の色が含まれていた。

やっとの事で果たされる願い。

心底から感動しているんだろう。さぞ至福を感じているんだろう。


でもマロ、違うよ。

違うんだ。その喜びは・・・


「違う」


あたしが言ったのかと思うほど、あたしの心の声にピタリと合った、門川君の声だった。


彼はマロを見つめながら、再びハッキリ言い切った。

「それは違う」