神様修行はじめます! 其の三

門川君も無表情にマロを見返して、思惑の読めないふたつの視線が絡み合った。


「さて門川当主様、ご決断はいかに? 世界のために、自分の一族を差し出す覚悟はできたでおじゃるか?」

「できねーわよ! んなもん!」


あたしは思わずふたりの会話に割って入った。


そんな覚悟なんか、できるわけないでしょ!?

知ってて言うんだから根性悪いよ! このお歯黒は!


「ほう? なぜでおじゃる?」

「しちゃいけないからだよ!」

「なぜ? 千年前、門川は自分達の利益のために、端境を犠牲にした。なのに今、世界のためでも自分の一族を犠牲にする事はできぬ、と?」

「そ、それは・・・」

「ずいぶんと、手前勝手な言い分でおじゃるのぅ。ほほほ」


扇で隠された口から甲高い笑い声が響いた。


「可笑しや。あぁ、可笑しや・・・」


三日月のように細く歪んだマロの目は、まったく笑ってはいなかった。


「門川一族は、自分可愛さゆえに世界を見捨てると言うのでおじゃるな」

「ねえ、マロ!」

「典雅でおじゃる」

「マロの方が呼びやすいから、マロでいい! あんた操られてるんじゃないの!?」


長老のババの、あの蜘蛛の糸に操られてるんじゃないの?


だって千年の恨み恨みって言うわりに、その千年間、端境一族はおとなしく従ってたんでしょ?


不満はあっても、何の行動も起こさなかった。


なのに、いきなりテロ行為だもん。


訴え続けてもどうしても聞き入れてもらえず、堪忍袋の緒が切れたってんなら分かるけど。


ある日突然テロリストに変身なんて、極端すぎる。