落ちる涙が、息子の顔を濡らした。
まるで息子自身が流せぬ涙を、代わりに母が流してあげているように。
その涙を、老いた母の指が拭う。
いくらでも落ちる涙が、息子の顔を洗っていく。
頬を、髪を、肩を、胸を。
母がその身を削って育て上げた、愛しき我が子の屍を。
もはや決して届かぬ愛を捧げ続ける老母の姿は、哀れにも厳粛さに満ちている。
端境の誰も責める言葉は無く、ただその姿を見守っていた。
凍雨君が印を組むと、キンッと冷たい風が吹いて頭上の木々の葉を揺らし、紙垂れの一部がパッと砕け散る。
これで結界は破られた。もう進むしかない。
留まる事はもうできない。前へ進まなければならないんだ。
―― チュッ、チュッ……
どこからか、小さな音が聞こえてくる。
なんの音かと思ったら、小さな女の子が、懸命に自分の指をしゃぶっている音だった。
なんだか今にも泣きそうな顔してるけど、ひょっとしてお腹が空いてるんじゃないかな?
あ、そうだ。
あたしは、その女の子の前にしゃがみ込んだ。
「ね、お腹空いてるの?」
「・・・・・・」
女の子は透き通った可愛い目で、あたしを見上げた。
母親らしき若い女性が、小さな体を急いで抱き寄せ、怯えた目であたしを見る。
「あの、よかったら、これどうぞ」
そう言ってあたしは、権田原で手渡された梅干おにぎりを差し出した。
まるで息子自身が流せぬ涙を、代わりに母が流してあげているように。
その涙を、老いた母の指が拭う。
いくらでも落ちる涙が、息子の顔を洗っていく。
頬を、髪を、肩を、胸を。
母がその身を削って育て上げた、愛しき我が子の屍を。
もはや決して届かぬ愛を捧げ続ける老母の姿は、哀れにも厳粛さに満ちている。
端境の誰も責める言葉は無く、ただその姿を見守っていた。
凍雨君が印を組むと、キンッと冷たい風が吹いて頭上の木々の葉を揺らし、紙垂れの一部がパッと砕け散る。
これで結界は破られた。もう進むしかない。
留まる事はもうできない。前へ進まなければならないんだ。
―― チュッ、チュッ……
どこからか、小さな音が聞こえてくる。
なんの音かと思ったら、小さな女の子が、懸命に自分の指をしゃぶっている音だった。
なんだか今にも泣きそうな顔してるけど、ひょっとしてお腹が空いてるんじゃないかな?
あ、そうだ。
あたしは、その女の子の前にしゃがみ込んだ。
「ね、お腹空いてるの?」
「・・・・・・」
女の子は透き通った可愛い目で、あたしを見上げた。
母親らしき若い女性が、小さな体を急いで抱き寄せ、怯えた目であたしを見る。
「あの、よかったら、これどうぞ」
そう言ってあたしは、権田原で手渡された梅干おにぎりを差し出した。


