神様修行はじめます! 其の三

激しく頭を左右に振る。

白髪の目立つ長い髪がバサバサと乱れた。


「この子は優しい子じゃ! 早くに夫を亡くした私にとって唯一の生き甲斐!」


胸を大きく膨らませ、吸い込んだ息の全てを一気に吐き出し拒絶の言葉を叫ぶ。


「この優しい子が私を置いて・・・私ひとりを置いて先に逝ってしまうはずがない!!」


・・・・・・


その後は、ただ・・・・・

ぜえぜえと、老女の息を切らす音だけ。


誰も身動きしない。


何も、ひと言も話さない。


母の叫びに対する肯定の言葉も、否定の言葉も。


何も、どこにも無かった。


母親の乱れた呼吸音が徐々に落ち着いていく。


ただ、目付きばかりがいつまでも険しかった。


まるで、愛する息子をどこかに連れて行こうとする何かに対して挑むように。


その喉笛に噛み付いてやろうとする、死に物狂いの獣のように。


やっぱり・・・。

やっぱり居たんだ。この術師にも。


守りたいと思っていたはずの、大切な人が居たんじゃないか。


優しい息子。きっと、本当に優しい人だったんだろう。


女手ひとつで自分を育ててくれた母親を大切にする、優しい孝行息子だったんだろう。


なのに、術師はそれを否定した。


自分の愛情を、この世の全てを否定させられた。


老いた母親をひとりぼっちで遺していく事を知ったうえで。


その母親の命すらも、結果、奪われる事になるであろう事を承知のうえで。


術師は自ら結界を解いた。


そしてあんなにも・・・あんなにも、満ち足りた表情で殺されていった。


遺されたのは、母ひとり。


何も知らずに、ひたすら息子を信じ続ける母がひとり。


信じ続ける・・・・・


老いた女が、ぽつんと・・・・・ひとり。


あたしは両手をぎゅうぅっと握り締めて、懸命に胸の痛みをこらえた。