神様修行はじめます! 其の三

「結界張らなかったら、端境一族全滅じゃん! あんた分かってるの!?」


「おそらくこやつは分かっているのであろう」


「はあぁ!?」


分かってて張らない?

それこそ意味不明。なんで? どうして?


「これは妄信しておるな」


「妄信? なにを?」


「小娘、お前も身に覚えがあるであろう」


「・・・へ?」


「理不尽極まりない理屈なのに、それが正しい道だと信じて疑わぬ」


「・・・・・・」


「絶対に自分はその道を進まねばならぬのだと、一度妄信してしまえば二度と揺るがぬ」


・・・

・・・・・・

あ・・・・・


あの時の光景が脳裏にパッと浮かんだ。


権田原の雪の山中から転移の宝珠で連れて行かれた道場内。


御簾の向こうから聞こえてくる、あたしを諭す女性の声。


あたしが新たな雛型になるべきなのだと・・・。


「あの、長老のおばさん!?」


「そうじゃ。これはあの女の言霊、『蜘蛛の糸』じゃな」


絹糸が納得したように頷いた。


「この世の全てにおいて、人から成される事はならぬ事だと妄信しておるのじゃろう」


人から成されること全て?


結界を張れと命令される行為も。

端境一族を守ろうとする行為も。

自分の命が救われようとする行為も。


この世の全てを拒絶しなければならないと、この術師は信じ込んでいるの?


この世の者ならぬ異形のモノが、自分を殺そうとする事だけは受け入れるって?


・・・信じられない!


端境にとって結界を張るってことは、存在理由に等しい行為でしょ!?


その行為を止めさせることができるなんて!


しかもその結果、一族全滅だって分かりきってるのに!