神様修行はじめます! 其の三

「当主様! 当主様はいずこにおられますか!?」


その時、ドタバタと乱れた足音と大声が慌ただしく響いた。


「いた! ここにおられるぞ!」

「おおぉ! こちらでございましたか!!」


まだ若い、薄い灰色の袴姿の術師達が複数、血相変えてこっちに走ってくるのが見える。


「当主様! 今までどちらに!?」


「このような非常時に突然姿を消されて、皆は大変心配いたしました!」


「方々を探し回りました! なにか不測の事態でも起こりましたか!?」


術師たちが滑り込むように廊下に揃って平伏する。


そして次々と今までどこに!? なにがあった!?をしつこく追求し始めた。


それに対して門川君は「どこでもないし、何もない」と、強引に話を終わらせる。


そしてすまし顔でスタスタ廊下を進んで行く。


あたしと絹糸も黙ったまま後に続く。


術師達は、軽く腰を屈めながらワタワタと後を追ってきた。


「いや、しかし当主様!」


「何もないと申されましても、さすがにそれは!」


「いったい何事がございましたか!?」


「だから、何もないと僕は言っている」


何があったと問い詰められるたびに、あたしは身の縮む思いだった。


彼が「何もない」と嘘をつくたび、申し訳なさで胃がキリキリする。


そうだよね。緊急事態の真っ最中に当主が姿消したら、そりゃみんな慌てるよね。


大騒ぎになったろう。


ヘタすりゃ自分だけ逃亡したと疑われたかもしれない。


彼はみんなにどうやって弁明するつもりだろうか。


門川君は当主として、ものすごいタブーを冒してしまったんだ。


一族からの信用を失うかもしれない大きな危険を冒した。


・・・あたしが、それをさせてしまったんだ。


つくづく自分の失態と愚かさ加減を思い知り、情けなかった。


守らなければならないのに・・・あたしは、いつも彼に守られてばかりだ。